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卒業生の声 2021/10/12

何もないこの町だったからこそ、見えてくる本当に大切なこと

初めてこの広田町に訪れたのは大学4年生の夏だった。

当時の自分は教採(教員採用試験)を控えていた。しかし、教採に対するモチベーションはなく、こんな何もない町に、友人に誘われたプログラムだからと参加しているのであった。今までの自分では体験し得ない何かを求めていた。

 

広田町に訪れて最初の感想は、本当に何もないということだった。

 

自分はこの町に新しい体験を求めてやってきた。しかしなにもないこの町で、いったいどんな体験ができるのだろうかと、期待よりも大きく膨らむ不安を感じていた。

プログラムが本格的に始まる。とにかく人と話し合うことが多かった。

 

本番一週間の中頃で、「町と人を体験することを目的としたアクション」について、運営メンバーから共有を受け、自分たちのこうしてみたいを混ぜ込み、練習した。

町の人との関わりの中で、当時の大震災のリアル、人の心の動きや町の変化を知った。体験談は初めて聞くのに、あまり自分の心の中には入ってこない感覚で、いまや想像できないほど過酷な状況であった事だけはわかった。

 

自分がこの町でしたかった体験はこれでよかったのか?という疑問がずっと頭の片隅にあった。大学生の力で町づくりになるアクションをやってみること、町の人の実体験を聞くことの価値はあったが、自分のなかで満たされない何かがあった。

 

全てのアクションを終え、町の方の反応に驚いた。ただの大学生の「町で取れる竹や木材で奏でる音楽会」というアクションに対し、涙を流す町の方がいた。

確かに、初対面の大学生と0から企画し実行までやりとげたことの達成感は大きかった。しかし、町の方の反応があまりに大袈裟に見え、現実を信じられない自分がいた。目の前で起きていることが不思議でならなかった。

 

 

しかし同時に、自分の中に大きな変化も起きていた。

いままで自分のやってきたことをなにも信じられなかった自分、人の気持ちがわからず、周りの様子ばかりを伺い、一生懸命目立たないようにしていた自分、どんなことに取り組んでみても、穴の開いたバケツのようにいろんなものも流れ落ちていた感覚、結局自分は人のためになんかなれない、自分には何も持ち得ていないと思っていた

 

しかし、自分たちの頑張りに涙してくれる町の方の存在が、自分の存在も救ってくれた気がした。

こんなアクションでと思ったけど、ただ自分の中にある感謝の気持ちを表現するだけで目の前の人には届くんだと実感した。

 

自分の中には何もないと思っていたけど、そうではないのかもしれない。

自分の中にある気持ちや想いは確かにあって、ただ人に伝えようと表現してこなかっただけなのかもしれない。町の方々に対する感謝も、一緒にプログラムをやり遂げた仲間への感謝も、自分自身に対する感謝もちゃんと自覚して、少しずつでも人に自分に届ける努力をしていこうと静かに決意する自分がいた。

 

この町は本当になにもない。けれど、だからこそ自分の中にある確かなことに気づける町であった。

些細なことでいい。自分にとって大切にしたいものだと思ったら、今度はそれを大切にしていける人生にしていければいい。

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